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浦和地方裁判所 平成2年(わ)53号 判決 1990年6月21日

本店の所在地

埼玉県大宮市桜木町二丁目一三番地一 松沢会計ビル一階

栄光開発株式会社

右代表者 松澤俊子

本籍

埼玉県大宮市浅間町二丁目八番地

住居

同県同市大成町一丁目四六一番地

公認会計士

松澤正義

昭和一二年三月一一日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官廣瀬公治出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社を罰金一八〇〇万円に、被告人松澤正義を懲役一年に各処する。

被告人松澤正義に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、埼玉県大宮市桜木町二丁目一三番地一松沢会計ビル一階に本店を置き、不動産売買並びに斡旋等を目的とする資本金二〇〇〇万円の株式会社であり、被告人松澤は、公認会計士の仕事のかたわら、昭和四八年三月一六日被告会社を設立して代表取締役となり、昭和五二年四月二六日これを退いた後も実質上被告会社を経営しその業務全般を統括していた者であるが、同被告人は、被告会社が転売目的で購入した同市桜木町一丁目四〇九番二所在の宅地外八筆の土地の買主である東西交易株式会社が、期日までに買受け代金の支払をしなかつたため、同社と被告会社との間の売買契約を解除した上、東西交易を紹介した松栄不動産株式会社に東西交易と同一価格で同土地を買い取らせることにしたものの、その間被告会社の借り入れた土地購入資金の返済ができず要らざる金利負担を被つたばかりか、手付金を受取つていなかつたこともあつて東西交易や松栄不動産から違約金その他の賠償金を得ることもできなかつたことから、この際は、被告会社と松栄不動産との間の右土地の売買契約を一度同会社の債務不履行により解除したこととし、その手付金を違約金として受領したと仮装し雑収入とすることによつて、被告会社の業務に関し、土地譲渡利益に課せられる法人税の一部を免れて右損失に充てようと企て、昭和六二年三月二四日ころ、被告会社と右松栄不動産との間の、同土地についての売買契約に際し、その手付金を、九億二一〇〇万円、その代金を、被告会社と前記東西交易との売買契約における代金額八八億六七二五万円から右手付金の額である九億二一〇〇万円を減じた額とほぼ同額の七九億五〇九六万七五〇〇円として売買契約書を作成し、続いて、同月三一日ころ、被告会社と松栄不動産との間において、同社が右売買契約に基づく中間金の支払いを遅滞したことにより被告会社が同契約を解除するとともに右手付金九億二一〇〇万円を没収し、更に同土地につき、被告会社と松栄不動産との間に、その代金を従前どおり七九億五〇九六万七五〇〇円とする売買契約を成立させる旨の事実に反する合意書を作成する方法により、被告会社の土地売上高の一部を秘匿した上、同年三月一日から同六三年二月二九日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が八億四二六〇万六八〇二円、課税土地譲渡利益金額が一一億一三六四万四〇〇〇円であつたのにかかわらず、同年四月二六日、同市土手町三丁目一八四番地所在の所轄大宮税務署において、同税務署長に対し、同事業年度における被告会社の所得金額が八億四二六〇万六八〇二円、課税土地譲渡利益が六億五九六一万三〇〇〇円であり、これに対する法人税額が四億八六四九万八一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告会社の同事業年度における正規の法人税額五億七七三一万九三〇〇円と右申告税額との差額九〇八二万一二〇〇円を免れたものである。

(逋脱所得金額の確定内容は、別表一の修正損益計算書の税額計算については同二の脱税額計算書の各記載のとおりである。)

(証拠の標目)

一  被告会社代表者松澤俊子及び被告人松澤の当公判廷における各供述

一  被告人松澤の検察官に対する各供述調書

一  松澤俊子の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  林義昭、長岡国男及び内田清の検察官に対する各供述調書(いずれも謄本)

一  大蔵事務官吏作成の不動産売上高調査書、雑収入調査書、修正損益計算書及び脱税額計算書

一  登記官作成の各商業登記簿謄本

一  被告会社代表者松澤俊子外一名作成の確定申告書(写し)

(法令の適用)

被告会社の判示所為は法人税法一六四条一項、一五九条一項に、被告人松澤の判示所為は同法一五九条一項にそれぞれ該当するところ、被告会社については、情状により同法一五九条二項を適用し、その所定金額の範囲内で被告会社を罰金一八〇〇万円に処することとし、被告人松澤については、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告会社の実質的経営者である被告人松澤が、土地の売上高の一部を違約金収入と仮装する方法を以て、土地譲渡益に課せられる法人税を免れた事案であるが、そのきつかけは、被告人が短期間の土地売買により多額の利益を得ようとしたことにあり、しかも、その手段は土地売買代金額をことさら過少に仮装した売買契約書及び前記松栄不動産の債務不履行により手付金が没収された後再契約に及んだ旨の虚偽の合意書を作成したうえ、真実の売買代金額を推認させうる被告会社と前記東西交易との間の売買契約書等を廃棄し、更に、松栄不動産に対しても被告会社の経理上の架空処理に対応する処理をするよう働きかけるなど極めて巧妙なものである。また、本件の脱税額は九〇〇〇万円を超える多額であつて、決して軽視できるものではない。もともと被告会社が東西交易の債務不履行により要らざる金利負担を被つたとしても、それは同社の資金力のないことを見抜けず、手付金すら取らなかったという甘い取引態度に原因があるのであり、そのような見通しの甘さから生じた損失を脱税という手段によつて填補するというのは余りにも自己中心的であり、一般国民の納税倫理からしてもその動機に酌量の余地はない。ことに被告人松澤は、本件犯行を計画する段階から終始主導的な役割を果たしていたこと、しかも公認会計士、税理士の資格を有する者でありながら、自己の専門的知識を悪用して本件犯行に及んだこと、本件は本来公正な税務会計の実現を指導すべき立場にある公認会計士、税理士の社会的信用を著しく失墜させるものであることなどの事情を考慮するならば、その犯情は悪質であり、同被告人の刑責はまことに重いというほかはない。

ただ、被告人松澤が脱税工作を弄したのは本件が初めてであり、脱税の反復的性格はなく、再犯のおそれも小さいと認められること、被告会社は、本件発覚後、修正申告をなし、本税、過少申告加算税、重加算税及び延滞税の支払いを終え、更に、被告人松澤も公認会計士協会、税理士会に対し脱会の手続きをとるなど、改悛の情を示す行動に出ていること、本件は新聞報道などでも取り上げられ、被告会社は仕事の受注量が減り、また、本判決確定により、被告人松澤は少なくとも長期間、公認会計士、税理士の資格を喪失することになるのであつて、いずれも相当の社会的制裁を受けあるいは受けることになるなどそれぞれ酌むべき事情もあるので、被告会社に対しては主文の罰金を科すに止め、また被告人松澤に対しては、暫くその刑の執行を猶予することにしたものである。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 須藤繁)

別紙一

修正損益計算書

栄光開発株式会社

自 昭和62年3月1日

至 昭和63年2月29日

<省略>

別紙二

<省略>

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